[#008]2005/7/17 MSXの思い出2 西社長の思い出

仕事が忙しすぎてすっかり出遅れてしまいましたが、再びMSXの話です。4月末に「MSXマガジン永久保存版3」(アスキー)が発売されました。そして、同誌などでも紹介された「1チップMSX」の予約も始まりました
私もすかさず予約をしましたよ。390番台ぐらいの順番でした。
うれしいですねえ。エミュレーターではなく、実機が再び登場するとは。私はMacユーザーなので「MSXマガジン永久保存版」付録のソフトはまったく動かしていないのですよ。VirtualPCも試してみたんですが、動作が遅くて使い物になりませんでしたから(T_T)。
しかし、1チップMSXの予約状況は7月中旬現在、やっと2000台を超えたところで、本当に目標の5000台まで達するか心もとないものがあります。ここはアスキーでMSXのシステムに触れたことがある私の立場から、何か応援するような文章を書きたいところです

そこで何かMSXについての思い出を書きたいところだったのですが、特にネタが思いつきませんでした。それではつまらないので、今年前半最大の話題だったホリエモンがらみのことを書こうと思います。
「MSXマガジン永久保存版3」p175の4コマ漫画「べーしっ君」によると、ホリエモン騒動の時に西和彦氏がテレビに出演したそうなんですね。私はその番組は見ていませんが、ホリエモン騒動についてはこの漫画にあるように

「うおおーっ!!なんだかヒジョーに複雑な気持ちだぜーっ!!」

というセリフに同感です(T_T)。
一昔前ならアスキーの西社長、ソフトバンクの孫社長がベンチャーの両雄と言われたものです。しかし、今は西氏の方は表舞台からほとんど名前が消え去ってしまった一方、孫氏の方はどんどん拡張していき、今やプロ野球チームのオーナー。そして、ライブドアのホリエモン氏、楽天の三木谷氏といった次世代の起業家も登場し、ますます西氏の影は薄くなるばかりです。なぜこんなことになったのか、ほんとに残念なことです。

私がアスキーに入社したのは1990年。アスキーは前年に店頭市場(現ジャスダック)公開、西氏は創業者ですので肩書きは副社長(当時)でもアスキーの事実上のトップでした。私がMSX部門に配属されたといっても、気軽に話せる相手ではありませんし、そもそも私たちの前に現れることも少なかったように覚えています。上司は会議などで顔を合わせる機会が多いでしょうが、私のような下っ端には雲の上の存在でした。ですから、当時の西氏の思い出といっても特に印象に残るようなこともないんですよね。う〜ん困った、これでは話が続かないではないか(笑)。
その後間もなく私は出版部門に異動し、西氏との直接のつながりも途切れてしまいます(西氏はこの頃には出版には興味を持っていなかった)。次に西氏とかかわるようになったきっかけは私が編集を担当した「マルチメディア昆虫図鑑」からでした。これは良く売れた製品でしたので社内でも注目を集めました。当然、西氏も面白がってくれました。その後しばらくして、アスキーには「社内カンパニー」が導入されました。当時はやっていた「企業内企業」というやつですね。それぞれのカンパニーを独立させ、競わせることで効率を上げる、というものです。「マルチメディア図鑑シリーズ」の製作は出版部門で行っていたのですが、この際に教育市場を扱う「エデュケーション・カンパニー」に編集部ごと移籍することになりました。このエデュケーション・カンパニーの長が西氏だったのです。カンパニーの長は「プレジデント」という肩書きでしたので、西氏は「西プレジデント」と呼ばれていました。そして、略して「西P(にしぴー)」とも呼ばれてました。私のまわりではもっぱら「西P」と呼んでいましたね。プレジデントにはなったものの、やはり西氏は下っ端の前にはなかなか現れない存在でした。
アスキーの業績が悪化しはじめたのはこのころからだったように思います。やがて、アスキーはCSK傘下に入り、リストラが始まりました。結局私も辞める道を選びました。
CSK傘下に入った後、西氏のむだづかいが次々と発覚し、西氏からは権限が取り上げられました。そして、西氏は自身が関わった事業の整理を終えるとアスキーを去ることになりました。さらにアスキーはCSKからも見放され、投資会社に売却されました。そして現在は角川書店グループの一企業として細々と生き残っています。かつてのアスキーからはいろいろな部門が独立、分社化されたため、昔のアスキーと今のアスキーは別の会社といってもいいほどです。現在のアスキーに過去の栄光はありません。
うわ〜、応援する話が暗〜い話になってしまいましたね(苦笑)。

さて、ここでホリエモン騒動に話を戻しましょう。この騒動を見ていてつくづく思うのは、西氏は良くも悪くも「技術者バカ」だったということです。
孫氏やホリエモン(ついでにいうと、ビル・ゲイツも)のやり方は西氏のものとは根本的に違います。彼らは他社を買収して規模を拡大するという手法を駆使してきました。つまり、他人の努力の成果を金で巻き上げてきたわけですね。これに対して、西氏は「自ら新しい価値を作り出す」ことにこそ関心があったように思います。他社と協力することはあっても、買収するようなことには興味が無かったのではないでしょうか。
楽天の三木谷氏は何もないところから「オンライン商店街」を構築しました。この点は私も非常に評価しています。しかし、楽天も最近は他社の買収をやっているようで、結局やることは同じになってしまうのかなあ、と少し残念です。
西氏の行動原理を見ていると、やはり「何かを作りたい」「新しいものを作りたい」という欲求が根本にあったように思います。私も元プログラマーですから、この技術者的欲求・行動原理というのはよくわかります。他社の成果を金で買い取ってしまおう、とか、金をうまく使って会社をでかくしてやろう、というような発想はないんですよ。経営者的にはダメなタイプですよね。でも、私はそういうところが好きなのです。私がMSXを好きになったのも、日本独自の「標準規格」を新たに作った、というところに非常に魅力を感じたからです。こういうのにわくわくするのが技術者というものなのです。そんな西氏に共感するものがあったからこそ、私はアスキーに入ったのです。
ですから、私は今でも孫氏やホリエモンよりも西氏の方がずっと好きです。
あ、でも、またいっしょに働きたいかと問われれば、それはまた別の話ですが…(苦笑)。今は私はまったく別世界にいるので、そういうことで悩むことはもうないと思いますがね。

というわけで、私の中ではMSXと西氏の思い出は分かちがたいものがあるわけです。ですから、1チップMSXはぜひとも実現してほしい製品なのです。この文章を読んで、昔のMSX体験を思い出された方、MSXシステムに興味を持たれた方、ぜひぜひ1チップMSXの予約をしましょう! 1チップMSXはもちろんレトロ気分を満足させるアイテムではありますが、同時にここから何か新しいことをやってくれるのではいか、という期待もあります。技術者をやめてしまった私でも、何かわくわくするものを感じさせてくれるのです。

がんばれ1チップMSX!

目指せ5000台突破!


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