[#005]あるメカニック・デザイナーの言葉で思ったこと

(2006/4/16)

最近アニメの設定画集(もっぱらメカデザイン)をよく読んでいます(しかもたいてい20年ぐらい前の作品だったりする(笑))。その中でも特に面白いと思ったのが「河森正治デザインワークス」という本です。内容自体は設定画の羅列というありきたりのものなのですが、巻末のロング・インタビューがとても面白いのです。
さて、河森正治というとアニメ界では最も有名なメカニック・デザイナーのひとりです。個人的に思い出深い作品を挙げてみますと…

「超時空要塞マクロス」…可変戦闘機バルキリーには大興奮でした
「アーマード・コア」シリーズ…これはテレビゲームですが、第1作からずっとやってます。無限といえるほどの組み換え可能なロボなのにデザインが破綻していないのがすごい
「青の6号」(1998年)…高速潜航艇グランパスがむちゃくちゃカッコイイ
地球少女アルジュナ」…これは監督作品ですがイチ押し
「創聖のアクエリオン」…超絶合体にびっくり
「交響詩篇エウレカセブン」…サーフィンロボにびっくり

…といったものがあります。
こういったデザイン画もいいんですが、とにかくインタビュー記事が面白いんで、ちょっと引用してみたいと思います。


よく言われるんですけども「○○みたいなのをやって下さい」ってオファーが来たらもう駄目ですね。それを言われた瞬間に気分が萎えちゃうんで……。(p195)

わかる!わかりますその気持ち!
私も同じようなことを言われて頭にきたことがありますから。「○○みたいな」デザインがほしいんならその元々のデザイナーに頼めばいいじゃないですか! こっちはオリジナリティーとか、他者との差別化にいつもいつも取り組んでいるのに、他人のマネを要求するというのは実に失礼な話です。そもそも企画段階で「○○みたいなもの」と言ってるようではオリジナリティーなど望めないのであります。
ところで、「おまえはイラストレーターであってデザイナーではないだろう」と言われる方がいるかもしれませんが、私はキャラクターデザインもメカニックデザインも(実績希少ながら)やっていますのでれっきとしたデザイナーなのです。すいすいと描いているようにみえる動物キャラたちも毎回あれこれ検討してデザインしているのですよ。それに、普通にイラストを描くとしても画面構成や配色などでデザイナー的要素を求められるものです。また、実在の動物をリアルに描く場合でもポーズや角度などデザイナー視点からの検討は必要になります。ただのイラストであっても私はデザイナーとしての観点を忘れないようにしています。ですから河森氏の言うことにも共感できることがけっこうあるのでした。

私にとって一番失礼な言葉は、「このイラストは○○の絵(あるいはデザイン)に似てるね」というものです。こんな言葉にいちいち反論はしませんが、心の中ではぷんすか怒っています!
ついでに、私を不愉快にさせる言葉のひとつは、人物キャラクターデザインに対して「これは誰かモデルがいるの?」あるいは「○○がモデルでしょ?」というものです。あのなー、キャラクターデザインにいちいちモデルなんか使わないよ! モデルを想定してしまうとその時点で性格とか人格とか(つまりキャラクター性)が固定されてしまうんですよ。それを狙っている場合は別ですが、普通はそんな個性(や可能性)を殺すようなことはしないのです。

繰り返しになっちゃうけど、物語や映像作品としての1stガンダムはとても好きなんですよ。ただ、その世界観に対してザクはすごく合っているけれど、RX-78はどうみても場違いにしか思えなかったんですよね。(p197)

インタビューではたびたびガンダムについて言及されています。やはりアニメ業界の最大派閥ですから触れないわけにはいきません。「RX-78」というのはその主役メカ「(初代)ガンダム」のことです。
確かに、初代ガンダムは主役メカのくせに一番現実感がないメカなんですよね(笑)。白いし。合体するし。だから私はファースト・ガンダムには愛着がないのです。
上記のように河森氏もガンダムを否定しているのではありませんが、今では「宗教的」ともいえるほどになってしまった、こりかたまったガンダム世界に苦言を呈しています。
うむうむ、これもわかる。今おもちゃ屋へ行くと、一番幅をきかせているのがガンダムものなんですよね。ガンダムにあらずんばメカにあらず、という雰囲気。だから他のメカの扱いはどうしても小さくなってしまいます。マーケティング的にも非ガンダムはかなり不利です。こういう状況では新しいデザインを世に出すのも大変です。

ホントにデザイナーになりたいんだったら、ガンダムとかマクロスを3年見ないとか、それくらいの決断が必要ですね。富野さんにはもう1回、「プロになるなら3年間、アニメは見るな。本物だけを見ろ!」みたいなことを大声で言って欲しいんですよね。(p205)

で、こういう発言も飛び出すわけですが(笑)、これはこれで正しいと思います。新しいデザイン、アイディアをひねり出そうと思ったら、他人のやってることをいちいち気にしていては何もできないのですよ、本当に。いや、私もアニメは見てますよ。でも、それをデザインの参考にしようと思うかというとそんなことはありません(というか参考にしたい作品すらほとんど無い…)。
イラストレーターにあこがれる人というのは、最初は誰かあこがれの人の絵柄をまねるものです。これは自然なことですし、私も最初はそうでした。でも、アマチュアではなくプロフェッショナルを目指すのならば、「他人のマネ」は真っ先に捨て去らねばならないのです。他人のテクニックを参考にすることはあっても、それを自分なりに使いこなし、それ以上のものを目指すのがプロというものでしょう。
まあ、アニメ作品に夢中になるような人々、他人の作品を模倣するようなイラスト屋は私の競争相手にもならないということです。
ちなみに私が最初にあこがれたイラストレーターのひとりはペーター佐藤でした。私の今の絵柄からは想像もできないでしょ? あこがれではあったけど、「同じものを描いてちゃダメだ」という意識は最初からありましたね。

「本物を見ろ!」の「本物」とは、ここでは現実のメカのことを指しているわけですが、私の場合は「現実の動物」ということになるようです。現実の動物を見てそのイラストを描く、一方で新しいデザインの創造もする。一見すると両立しないような私の仕事も、これらが相互に影響しあって高めあっていると考えれば実に理にかなっていると言えます(←自画自賛(笑))。

「キャラクター性を成立させるためには、やはりシルエットで見分けが付かなくてはならない」…これは僕がスタジオぬえに入った時に徹底的に言われたことで、塗りつぶしてどのメカか分からなかったら失格でした。(p188)

うむうむ、そうかそうか。本当に勉強になる言葉です。
そういえば私もキャラクターを差別化したり、個性をきわだたせたりするために、シルエット、外見、デザイン・コンセプトといったものを明確化させるというのは普通に使うテクニックです。シルエットだけで万事解決ということは実際は難しいと思うのですが、その言わんとするところはよく理解できます。
ちょっと話題がずれますが、最近の、美少女ばかりがずらずらずらりと登場するようなアニメとかマンガには私はちょっとついていけませんね…。何というか個性がないというか、見分けがつかないというか(笑)。見分けがつかないとストーリーものめりこめませんしね。世の中、美男美女ばかりではないんですから。デザイナーがちょっと工夫すればいいことなのにと思います。これも「シルエットの差別化」がなされていれば問題にはならないですよね。

最後に、これは河森氏の言葉ではなく、ライター氏(高橋規之)が序文「DESIGN デザインの理念」で書いていることなんですが、この文章の中でコンテンツ・デザインの3要素として、「物語」「キャラクター」「テーマ」が挙げられています。これも激しく同意します。
キャラクターデザインにおいて、何もないところからデザインがぽっと現れるということは普通はありえないことです。私のキャラクターデザインではほぼ必ずストーリーがセットになっています。キャラクターたちが活躍するのはどういう世界か、どういうストーリーか、それが明確になっていればキャラクターのデザインも自然に導かれるものです。
デザイン優先でキャラクターができることもあります。しかし、キャラクター性を強化したり、服装・小物・付属メカといった展開を考えるにはやはり世界観とかストーリーといったものが必要になるのです。
キャラクターデザインの注文で、そういった世界観やストーリー抜きで発注されるとかなりやりにくい仕事になりますね。こちら側で世界観やストーリー込みで考えることになるのですが、それが受け入れられないこともありますし…。


と、まあ、いろいろと考えることの多いインタビュー記事でした。私が考えていることは間違っていないんだということを確認できたのは良いことでした。売れないデザイナーではありますがね…(T_T)。

さて、「ガンダムもマクロスも見るな!」の言葉通り、私もこの本は封印してしまうことにしましょう。私もプロです。他人の作品を見るよりもやるべきことはたくさんあるのですから。


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